"ZOZO" Self liner notes


 M1:箱庭

 

心理カウンセリングで"箱庭"を使うことがある。小さな箱の中に木や砂、人形などを並べて、絵のように楽しむ。置き方、並べ方、その過程を見ることで人間の心理状態を知ることができる。その瞬間瞬間に広げられる物語を咀嚼して味わい、その人間の理解を深める。

 

私にとってライブハウスは"箱庭"だった。各々の世界を広げながら、解釈の違いを味わい楽しめる場所だ。

 

自分の大切なものをバカにしたやつを、僕は忘れない。

箱庭を守りたい、どうにかしたい、と思いながら、力になれない日々が続いた。

自分の中の自分と、ひたすら闘っていた時期の曲。

削り、削られ、研ぎ澄まされて、強くなりたいと、願ってやまなかった。

 


 M2:スイミンググレー

 

昔から二重人格なんじゃないかと思うくらいに、落差のある思考が巡る。結局君はどっちなんだ、と聞かれるが自分でもよくわからない。

 

何かを選ぶことが苦手だ。

二択を迫られた時、片方を選べばもう片方は捨てることになる。それがなんだか悔しい。でも時間に迫られて、逃げるように、靴を放り投げるように決める。

どちらか、ではない、真ん中を。道じゃないところを選んで、泳いでゆけたらなぁ、なんて。

 


M3:雨に唄えば

 

雨に好かれる。

何か楽しみなことがあるといつも雨に降られた。つまりは雨女だった。

だけど自分自身もめちゃくちゃに雨が嫌いなわけではなかった。

 

人前で歌うことは未だに恥ずかしい。

1人で練習していても、誰かに聞かれているかもしれないとなると集中できない。(結局これは直せないみたいだ)

 

香川にいた頃は、車を海まで出して練習していた。雨が降ると、ハタハタと雨音がして、心地よい。

下手くそな歌でも、ギターでも、誰の気にも留まらない。

そのくらいがちょうどよかった。

 

コーラスに京さんが入ってくれたのも感慨深い。彼女を想って描いた曲です。

 


M4:ティアードッグ

 

ライブハウスにはお酒がたくさんある。個人的に苦いお酒は苦手だが、カクテルもあるのでまれに飲んだりもしていた。

だけど車移動が多いので、ライブハウスに行っても大抵お酒が飲めない。なので基本はソフトドリンクやノンアルカクテルを選ぶ。

 

ライブ終わりに泣きながら飲むグレープフルーツジュースは、涙がソルティーで。

ノンアルのソルティードッグのように思えて、この曲を描きあげた。

ちなみに好きでよく飲むのは、グレープフルーツジュースとトニックウォーターを半々で入れた「十六夜(いざよい)」というノンアルカクテルです。

 


M5:めっちゃえー天気

 

本当に「めっちゃえー天気」の時に思ったことをそのまま曲にした。

単純明快。割とファンが多いのだけど、10分くらいでできた曲だ。

まぁこういう曲もいいでしょ。笑

 


M6:3LDK

 

このアルバムではラストの曲になっている「シンデレラ イン ワンルーム」の物語の続きが描きたくてできた。

シンデレラが脱ぎ捨てた靴を「大切にしまいなさい」と怒ってくれる人がお家にいるというのをイメージベースに。あと、ワンルームから3LDKの広いお家にお引越しを。

ボサノバ調の曲、とよく言われるのだけど意識して作ったわけではなくて「これがボサノバか...」と後から知った。

 


M7:Bloody Midnight

 

ライブの時の自分が、何者なのかわからなくて悩んだ時期があった。演じているような、それが素のような。

結局自分でも掴めなかったのだけど、その落差に観客が困惑しているのを、むしろ楽しんでやろうと思ったのがこの曲を描いたきっかけ。

半分ホンモノなのだとしたら、それは贅沢なのかもしれない。

真っ赤なウソが巡る身体で、踊るように生きてみるのもおもしろそうじゃないか。それを曲で、ライブで体現してみている。

 


M8:ぱくぱく

 

薄汚れたまま息絶えた小さなスズメを掌にのせ、何も言い出せないでいるこども。

「汚い」の一言で片づけて、元をたどれば命だったはずのたこ焼きをほうばる母。

目の前で繰り広げられたやり取りから、衝動的に描いた曲。

命について考えを巡らせていた。

 


M9:ドレスコードは黒に決まりさ

 

昔好きだったロックバンドのメインボーカルが、すっかり売れっ子POPスターになってしまった。よく「あいつは変わった」なんて言ったりするけど、その言葉を聞くと私は彼を思い起こさずにいられない。でも生き残ろうとすれば時代変化の波に乗ることも必要だ。それもわかっている。そういうものなんだと、諦めている。

 

私がその諦めのフチにいた頃、「ドレスコーズ」というバンドに出会う。メインボーカル以外のメンバーが全員抜けて、ひとりになったらしい。ラジオから流れた曲は急所を狙ったような言葉の鋭利さ、それでいて跳ねるようにリズミカルなメロディーを兼ね備えていた。愁いを帯びた儚い美しいロックに魅了された。自分を貫いている、あんなライブがしたいと思うようになった。

そんな彼への敬愛と、自分自身の在り方の決意を込めて描いた。

ドレスコーズというバンドに黒のステージ衣装はないのだけれど、光の当たらない場所で”影と踊る”というイメージがあって、「ドレスコードは黒に決まりさ」というフレーズが浮かんだ。この曲が出来た頃から、私はドレスコードを黒に決めた。

 


M10:2020

 

コロナウイルスの世界的蔓延という未曾有のパンデミック。

街からは人が消え、マスクやアルコールがどこも品切れで手に入れられなかった。

使い捨てのマスクを洗濯して使ったり、布でマスクを作ったりして、どうにか日々を過ごした。罹患ではなく、心を病み、自ら命を絶った人もたくさんいた。

 

そんな中でライブは「趣向品」だと叩かれた。

不要不急の外出を控える緊急事態で、箱庭には人が寄り付かなくなった。

いよいよ窮地に立たされた。

どうしたらいいのかと路頭に迷って、レコーディングをしようと思い立つ。その売上を店に納めようとして、クラウドファンディングまで立ち上げたのだけど、結局マスターに止められた。

 

「店はまだ大丈夫だから、本当にあなたの曲を聴きたいと思ってくれている人に買ってもらいなさい」

 

あれは幻だったんじゃないかと思うくらい平穏な日常。

だけどあの頃、もどかしくて、悔しい思いをしたことを忘れたくなくて、このアルバムのタイトルチューンにした。

2020という字面を眺めていたら、ぼんやりと浮かんで見えて。

タイトルは自分の名前の音も混ぜた"ZOZO"にした。

 

曲中で語りかけている彼女は、架空の人物で歌詞にはいない。

詞先で、後から曲をつけた時に口ずさんでいた名をそのまま歌っている。

小さい女の子な気もするし、雲の上にいる神さまのような気もしている。

ただ、心の拠り所を探していたんだと思う。

 


M11:月ノ輪

 

「月が綺麗ですね」というのは、夏目漱石によって訳されたあまりにも有名な愛の言葉だ。

満月の夜にギターをつま弾きながら、不意に浮かんだメロディとその言葉。

そこから、叶わない未来を重ねてつらつらと綴った。

水面に映る月を、すくい上げて持ち帰れないのと同じように。

 


M12:シンデレラ イン ワンルーム

 

香川に移住してすぐの頃、ワンルームマンションに住んでいた。

実話がベースで出来たのだけど、自分の中で不思議な成長を遂げた曲。

ウジウジしがちな自分の殻を破ったり、前向きにスタートを切る時にはいつもこの曲があった。

 

「いたいの、一緒に、とんでいけ」

擦れてできた痛みを振り払い、過去を脱ぎ捨てて新しい未来へ歩み出すシンデレラ。

一緒に居たい彼の元へ、駆けだしていくシンデレラ。

2通りのラストはどちらも自分の意思で決めた前向きな選択で。

 

アルバムを作るにあたって、1番最後の曲はこの曲だろうと思っていた。

そしてまた「最高にイタイ箱庭」へ還っていく。

さぁ痛みの分かる者よ集え!

最高に居たい箱庭へ。